過信した男/レイジング・ブル(怒れる雄牛)ビッグ・ダルチニアン

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人口300万人のアルメニアはヨーロッパのくるみ割り人形だ。戦争、ロシアとの併合、アゼルバイジャンからの干渉、虐殺、トルコからの圧力・・・この国で成功することはほぼ不可能だ。家族や友人を残して他のどこかに行かなければならない。

ビッグ・ダルチニアン、アルメニアで生まれオーストラリアを拠点にプロボクサーになった男は身長わずか166センチ。丸刈りに男らしい顔、オーストラリア人は彼が誰であるかほとんど知らない。

レイジングブルというニックネーム、世界タイトル、素晴らしいノックアウトの数々にも関わらず、ダルチニアンはここシドニーではサッカーのシドニーFCの補欠ゴールキーパーよりサインを求められることが少ない。

彼はタフで勇敢な男だ。誰と戦うかといえば誰でもいいと答える。しかし軽量級でビッグファイト、注目を集めるのは極めて難しい状況が続いた。

人口300万人のアルメニアはヨーロッパのくるみ割り人形だ。戦争、ロシアとの併合、アゼルバイジャンからの干渉、虐殺、トルコからの圧力・・・この国で成功することはほぼ不可能だ。家族や友人を残して他のどこかに行かなければならない。

ダルチニアンはアルメニアのレスリングオリンピック代表コーチの父親から受け継いだ不思議な力を感じていた。8歳でボクシングを始めジュニアアマチュアボクシングで実力を発揮し始め、48kg級で12歳から16歳までアルメニアのチャンピオンに君臨し続けた。アルメニア代表としてシドニーオリンピックボクシングフライ級に出場し、準々決勝まで進んだ。

アマチュア時代の戦績は158勝18敗

ダルチニアン
「子供の頃は体は小さかったけど腕っぷしの強さで知られていました。」

しかし彼はそれを路上で使うことを拒否した。

ダルチニアン
「ケンカのように強さを自慢したいわけじゃありません。相手がどんなに大きくても、アゴに一発パンチを放てばどんなに危険か、私は大男を倒すことができます。」

ダルチニアンはアマチュアボクシングを通じ、ロシア、ウクライナ、中国を旅した。
彼は挑戦することが大好きだった。

ダルチニアン
「私がウクライナのキエフに住んでいた時、自分の2倍の体格の男たちとスパーリングしていました。みんな私を小さいと言うけれど、ならばノックアウトしてみなよ、私は大男をひどく傷つけました。」

トレーナーのジョニー・ルイスはダルチニアンの事を完全パッケージだと言った。

ルイス
「彼には生まれ持ったパワーがあり、精神的にも誰にも負けません。彼のパワーは天文学的で、何よりも彼の持つ欲望と規律が全てを一つに作り上げました。」

2004年12月16日、アメリカ合衆国フロリダ州ハリウッドのハードロック・ホテル・アンド・カジノでIBF世界フライ級王者イレーネ・パチェコ(コロンビア)と対戦し11回TKO勝ちで王座を獲得。ほとんどノックアウトで6度の防衛に成功した。

2007年7月、コネチカット州、ダルチニアンはIBFフライ級ベルトの7度目の防衛戦でノニト・ドネアと戦った。トレーナーのビリー・フセインは、ダルチニアンがほとんど耳を傾けないという指示を叫ぶ。婚約者のオルガは出産を間近に控えていた。

ドネアのステップに合わせ左を叩きこみ、ノックアウトしてやろう。5ラウンド、ドネアの破壊的な左フックカウンターを浴び、交通事故のような衝撃を食らった。本能で立ち上がろうとするも、バンビの脚はよろめき再びロープにもたれかかる。

戦いは終わった。レフリー、医療スタッフに囲まれながら、ダルチニアンは負けたことが信じられなかった。落ちたコインのように、自我、信念を失った。

27時間かけて祖国のアルメニアに帰ると、彼は群衆に囲まれた。

ダルチニアン
「女性は泣いて、私の手にキスをして抱きしめてくれました。男性は厳しいです。感情を示しません。」

ドネア戦後の記者会見でダルチニアンは

「怪我はしていません。私はまだ負けられません。」

と言った。

ダルチニアン
「私はあの夜、自分自身に負けました。妻と生まれてくる赤ん坊の事ばかり考えていた。ドネアを早くノックアウトして帰りたかった。」

階級が軽くなるほどボクシングの環境は悪くなる。多くのファンが叫び、野次るフィリピンやメキシコのようなところに行かねばならない。レフリーもジャッジもフェアとは言えない。弱みは見せられない。ジェフ・フェネックから指導を受け、ドネアに敗れるまで、ダルチニアンは「メキシカンキラー」として最高の選手だった。

トレーナーのジョニー・ルイス
「ドネアに負けたことでダルチニアンのボクシングが狂いました。ビッグパンチだけが唯一の選択肢であると考えるようになりました。派手なパンチなので皆真似をしますが、いつかノックアウトされてしまいます。キャリアが終わってしまうような悪い負け方です。私はダルチニアンがそんなにマッチョである必要はないとおもいますが、彼はよく考え抜いて以前よりも優れたファイターになって戻ってきました。」

敗北を経て、ダルチニアンはフラリとジムに戻ってきて、1500から2000回の腕立て伏せをする。彼のフィットネスと献身は、他のボクサーの間でも有名だ。彼のパワーの源はそこにあるが、自信は日頃の準備から生まれる。

ダルチニアン
「リングに上がる時は100%の状態でなければなりません。ドネアに負けて1週間後ジムに戻りました。私はトレーニングを再開し、あの敗北が間違いであった事を証明しなければなりません。」

2008年8月2日、ワシントンD.C.タコマのエメラルドクイーンホテル&カジノでIBF世界スーパーフライ級王者ディミトリー・キリロフ(ロシア)に挑戦し、終始荒々しい攻めでペースを支配していき5回に2度目のダウンを奪った所で相手が起き上がれず試合がストップ5回KO勝ちで2階級制覇に成功。

2008年11月1日、カリフォルニア州カーソンのホーム・デポ・センターでWBA・WBC世界スーパーフライ級スーパー王者クリスチャン・ミハレス(メキシコ)と王座統一戦で対戦。老獪なテクニックが持ち味のミハレスから初回終了間際に右ストレートでダウンを奪うと全く寄せ付けず、9回終了時にコンビネーションでダウンを奪うと、ミハレスは失神しレフェリーがカウントを途中でストップし9回終了時KO勝ちを収め三団体王座統一に成功した。

トレーナーのジョニー・ルイスはあらゆる時代をミックスしても、ダルチニアンは地球上でトップ3のボクサーだと主張した。もし彼がヘビー級だったら世界は彼に熱狂していただろうと。

ルイス
「ダルチニアンはいつも自分より20キロ、30キロ重い男とスパーリングをします。ジムには「ヴィックとスパーリングする者専用の保護具」の着用が義務づけられていました。

ダルチニアン
「100キロ以上の男20人全てノックアウトできると感じます。ボクシングが体重別の競技であるには、自分は強すぎるとおもいます。マニー・パッキャオと戦ってみたい。それは大金を生む試合になるでしょう。けれどお金の事を考えるとファイトに集中できなくなります。」

ホルヘ・アルセ(51勝39KO4敗1敗)が次の標的だ。

ダルチニアン
「私はベストになる事に集中しています。最高のファイトがしたい。最高のノックアウトがしたい。私の名前は歴史に残るだろう。それが私の目標です。人生は一度きりです。だからそれだけを追い求めます。」

記事はここで終わっているが、その後階級の試練、日本の山中、ドネアが再び壁となって勝ちはだかるのだった。

補足(WIKI)

スーパーフライ級

2009年2月7日、カリフォルニア州アナハイムのホンダ・センターでWBA世界スーパーフライ級暫定王者のホルヘ・アルセ(メキシコ)と対戦し、初回から激しい打撃戦になりアルセに猛攻。その後有効打でカットしたアルセの右目尻の傷が悪化してドクターストップがかかり11回終了時棄権。WBA王座は王座統一による初防衛、WBC王座は初防衛、IBF王座2度目の防衛に成功した。

2009年7月11日、フロリダ州サンライズのバンクアトランティック・センターにて1階級上のIBF世界バンタム級王者ジョゼフ・アグベコ(ガーナ)に挑戦するも、0-3の判定負けを喫し、3階級制覇に失敗した。この試合の前、WBCを通じて長谷川穂積へ対戦要求し、長谷川陣営も受けて立つ意向だったが、敗戦により白紙になった。

2009年7月28日、IBF世界スーパーフライ級王座を返上。

2009年12月12日、カリフォルニア州でWBC世界スーパーフライ級暫定王者のトマス・ロハス(メキシコ)と対戦し、2回コンビネーションで痛烈なダウンを奪うとミハレス戦に続いてロハスを失神させてカウントを途中でストップとなる2回2分54秒KO勝ちを収めWBA王座は2度目、WBC王座は王座統一による2度目の防衛に成功。

2010年3月6日、カリフォルニア州ランチョミラージュのアグアカリエンテカジノリゾートスパにてロドリゴ・ゲレロ(メキシコ)と対戦し、12回3-0(120-108、118-110、117-111)の判定勝ちを収めWBA・WBC王座の3度目の防衛に成功

バンタム級

2010年12月11日、アブネル・マレス、ジョゼフ・アグベコ、ヨニー・ペレスと共に出場したSuper Six World Boxing Classicのバンタム級版としてShowtimeが主催するトーナメントであるバンタム級スーパー4の準決勝でマレスと対戦し、12回1-2(115-111、112-113、111-115)の判定負けでIBO王座初防衛に失敗し王座から陥落、WBCシルバー王座獲得に失敗し準決勝で敗退。(これは勝ちでいい内容だった。)

2011年12月3日、カリフォルニア州アナハイムのホンダセンターでWBA世界バンタム級スーパー王者アンセルモ・モレノ(パナマ)と対戦し12回0-3(111-116、110-117、107-120)と最大13点差がついた判定負けという完敗を喫しWBAスーパー王座獲得での3階級制覇に失敗、IBO王座から陥落した。

この後、2012年1月からは、約2年ぶりに復帰したオーストラリア人トレーナー、ジョニー・ルイスの指導を受け、パワー頼みのKOを意識した戦い方を我慢し、本来のジャブを中心にコンビネーションを組み立てる基本的なボクシングスタイルへ戻すトレーニングに専念した。

2012年4月6日、東京国際フォーラムでWBC世界バンタム級王者山中慎介(日本/帝拳)に挑戦したが、序盤こそ互角の攻防を繰り広げたものの中盤以降は王者のアウトボクシングに翻弄された末に、0-3の判定負けでまたも3階級制覇に失敗。試合後アウトボクシングをした王者に対し不満を漏らした。

フェザー級

2013年11月9日、テキサス州コーパスクリスティのアメリカン・バンク・センターでノニト・ドネアとフェザー級契約10回戦で6年ぶりに再戦。終盤まで優位に試合を進めるが、9回にダウンを奪われると最後は連打をまとめられて試合終了。9回2分6秒TKO負けを喫し6年前のリベンジには失敗したが、試合終了回までの採点を78-74でドネアの負けとつけていたジャッジが2人(1人は76-76で引き分け)いたほど善戦、あわやという所までドネアを追い詰めた。

2014年5月31日、マカオのザ・ベネチアン・マカオ内コタイ・アリーナでノニト・ドネアVSシンピウィ・ベトイェカの前座でWBA世界フェザー級王者ニコラス・ウォータースと対戦するが、2回に右アッパーでダウンを奪われると防戦に回り5回にボディからフックを返されるとダルチニアンはグロッキーになりフック多用でダウンを奪われ、最後は左フックで痛烈に失神。5回2分22秒KO敗けを喫し悲願の3階級制覇はならなかった。

https://www.youtube.com/watch?v=3PHIMTdR9qM

2015年6月6日、スタブハブ・センター・テニスコートでWBA世界フェザー級王者ヘスス・クエジャルと対戦し、8回にダウンを奪われ、立ち上がったもののダルチニアン陣営からタオルが投げ込まれ、8回1分4秒、ダルチニアンの棄権によりまたも3階級制覇に失敗した。

通算戦績43勝32KO9敗1分
3階級制覇に5度挑戦するも、いずれも失敗

獲得タイトル
オーストラリアフライ級王座
OBAオセアニアバンタム級王座
IBFパンパシフィックフライ級王座
IBF世界フライ級王座
IBO世界フライ級王座
IBO世界スーパーフライ級王座
IBFオーストラリアスーパーフライ級王座
IBF世界スーパーフライ級王座
WBC世界スーパーフライ級王座
WBA世界スーパーフライ級スーパー王座
IBO世界バンタム級王座
NABF北米スーパーバンタム級王座

小さいけれど、生まれもったパワーが凄まじかったことがわかるダルチニアン。
ドネアに歴史的なノックアウトを食らうまで怪物じみていた。

ドネアに負けて落ち目だったかとおもったが、その後の活躍も目覚ましかった。ミハレスやトマス・ロハスのような技巧派には相性が良くめちゃくちゃ強かった。アルセ、マレスらも圧倒していたようにおもう。

しかしスパーリングでいくら強くても、いくら腕っぷしが強くても階級の壁は高かった。モレノや山中の技に完封され、ウォータースやクエジャルのパワーには本番では通じなかった。

かつて、イスマエル・サラスが教えたボクサーの中でダオルン・チュワタナの事を屈強に挙げていた。しかし彼もバンタム級の短命王者で終わった。

サラス
「彼はバンタム級の王者だったが、タフで屈強でした。誰でも押し込んでいくことが出来ました。パンチ力があり強くヒットしなくてもヘビー級のファイターすら倒すことができました。調整がいつも悪かったけど、リアルファイトになると、あぁ神よ、とても屈強でした。」

ジョニー・ルイスのこの言葉が重い。

ルイス
「ドネアに負けたことでダルチニアンのボクシングが狂いました。ビッグパンチだけが唯一の選択肢であると考えるようになりました。派手なパンチなので皆真似をしますが、いつかノックアウトされてしまいます。キャリアが終わってしまうような悪い負け方です。」

どんなに腕っぷしが強くてもそれだけではボクシングでは勝てない。
耐久力まで無限大なのではない。

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「ボクシング動画配信局」https://box-p4p.comの管理人です。 ボクシングで人生を学びました。

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