失われた2秒の影/(TNT=爆弾)メルドリック・テーラー Vol.3

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リチャード・スティールのあのストップは正しかったのだろうか?テーラーにもう余力はなかった。しかし本能的にすぐに立ち上がった。あと30秒残っていれば完全に破壊されていただろう。

しかし残りは2秒だった。

再開してもチャベスはテーラーに触れる事もできずにラストの鐘が鳴っていたはずだ。

ホセ・マーティン(チャベスのカットマン)
「このラウンドで倒す必要がある。ゴングと同時に襲い掛かれ。」

テーラーのチーム、デュバとベントンは、自分たちが試合を支配していると信じていたが、ラスベガスのスコアカードに不安があった。ここでは人気選手、メキシコ系の選手に採点が有利な傾向があった。ジャッジに泣かされた過去の経験が、テーラーにラストを守備的に逃げ切るのではなく積極的に打ち合うことを選択させた。

デュバ
「メル、これが最後のラウンドだ。全てはこのラウンドにかかっている。統一王者になりたいんだろ?」

ベントン
「このラウンドを何がなんでもとることが必要だ。」

指を示し感情を駆り立てた。

限界近くで戦ってきたテーラーは野心と決意、疲労と痛みが入り交じった世界にいた。あと3分間戦い抜くだけだ。そうすればチャベスの無敗記録を破った男として永遠に不滅の名声を手に入れることができる。パウンドフォーパウンドの称号は目の前だ。コーナーからの熱烈な指示を背に、最後の危険なドライブに出かけた。

深刻なダメージにも関わらず、テーラーはインサイドでチャベスと打ち合った。ワイルドなフックを空振りしキャンバスに滑った。

不思議な事にチャベスは攻め急いでいるようには見えなかった。ファンとチャベスのコーナーはなぜがむしゃらに攻めないのかと不満を募らせた。チャベスはまだこの状況に見合った瞬間を捕らえきれていないようだった。

残り24秒、チャベスのラストエンジンがいよいよ始動した。右がテーラーの意識まで刈り取るような強さで炸裂しファンを予期せぬ狂乱に巻き込んだ。グロッキーなテーラーのアゴへの正確なフックを浴びせると遂にテーラーを奈落の底に突き落とした。チャベスは相手のダメージを図るように冷静にその場を離れた。それはまるでチャベスだけが最後の攻撃を開始する正確な瞬間を待っていたかのようであり、伝説の領域に生きる男だけがその時を知っているかのようだった。

わずか残り16秒でのダウン、メキシコの観客はこの劇的な瞬間に歓喜を爆発させた。テーラーがカウント5で立ち上がると、ラウンドの終わりを示す赤いライトが点滅した。一方のチャベスはコーナーに下がらずリングを彷徨っていた。レフリーのリチャード・スティールはカウントを中断しチャベスをニュートラルコーナーに戻すように指示する必要があった。しかしスティールはテーラーの状態を確認することで精いっぱいだった。

カウント8を数えた後、スティールはテーラーに「大丈夫か?」と尋ねた。
ここで問題がさらに複雑になった。

テーラーの適切な対応は、自分がまだ大丈夫である事を示すためにスティールの問いにはっきりとうなずくか、何か、何でもいいから声を出すことだった。しかしこの運命の瞬間、ルー・デュバがリングのエプロンに登った。デュバはチャベスがニュートラルコーナーに戻らないことをアピールしようとしていた。その結果、テーラーはスティールに答えるのではなく、彼の右側に目を向けた。テーラーがもはや適切な応答ができないと判断したスティールは目を閉じ、腕を上げ、戦いを振り切った。

残りわずか2秒
戦争が終わった。

ジム・ランプリー
「ありえない!信じられない!リチャード・スティールは残り5秒ないのに試合を止めた。ルー・デュバが怒っている。怒り狂っている。」

デュバはリングに飛び乗って、指を立て、スティールにありったけの暴言を吐いた。しかし彼の辛らつな暴言はチャベスの奇跡的な大逆転の歓喜によってかき消された。一方のコーナーは興奮と歓喜、もう一方には激怒と失望だけがあった。

論争の主役、リチャード・スティールは自分の決断に信念を持っていた。

スティール
「メルドリックがかなりひどく打たれたので、ストップしました。あれがそのタイミングでした。私はタイムキーパーではない。時間については気にしない。時間があろうがなかろうが止める時は止める。私は彼に大丈夫かと尋ねましたが、彼は何も言いませんでした。それだけでなく彼の状態をしっかり見極めて判断したのです。

命に値する試合などありません。パウンドフォーパウンドをかけた戦いであろうと、私が気にすることではない。テーラーの命が優先だ。彼はもう限界だった。ストップするにふさわしい状況だった。」

無論、テーラーもデュバもスティールの言葉を受け入れることはできない。状況を考慮すれば、つまり残り時間と結果の重みを考えれば、別の判断を下すべきであった。

デュバ
「時間を知らなかったなんて言わせない。レフリーはテーラーにチャンスを与えるべきだった。これは人生がかかった大事な統一戦なんだ。」

テーラー
「最後のゴングまであと2秒だった。スコアカード通り、レフリーはラストラウンド前に試合を止める仕事こそすべきだった。チャベスはいい右で俺を倒した。俺は立ったがレフリーは何も言わなかった。その後「大丈夫か?」と言ったが、俺の反応もよく確かめずに試合を止めた。俺は常に試合を支配していると感じていた。ラストラウンドは少し不注意だったが、勝ちに等しいことをやり遂げたとおもった。この試合は俺のものでなくてはならない。勝利をほとんど手中に収めていた。わけがわからない。再戦は絶対必要だ。」

奇跡の大逆転勝利を収めたチャベスは消耗のあまり最小限のコメントを残すだけだった。

「とても疲れた。メルドリックは素晴らしいファイターだ。とても速くてインテリジェントだった。また別の機会、再戦に値する。」

その機会は4年半先まで待たねばならなかった。

テーラーが失ったものは無敗記録とベルトだけではなかった。その後も現役を続けるもかつての輝きを失った。肉体的にも精神的にも見えない形で永遠にこの敗北に蝕まれていた。

1991年1月19日、WBA世界ウェルター級王者アーロン・デイヴィスと対戦し12回3-0(115-112、2者が116-111)の判定勝ちで2階級制覇に成功。

https://www.youtube.com/watch?v=_Z99x_2SLJg

1992年5月19日、ウェルター級王座在位のままWBC世界スーパーウェルター級王者テリー・ノリスと対戦するがノリスの一方的なペースになり4回2分55秒TKO負けで3階級制覇に失敗。

1992年10月31日、ロンドンのアールズ・コート・エキシビション・センターでクリサント・エスパーニャと対戦したが8回2分11秒TKO負けを喫し3度目の防衛に失敗し王座から陥落。

https://www.youtube.com/watch?v=wEWEyBDYllg

1994年9月17日、MGMグランド・ガーデン・アリーナでWBC世界スーパーライト級王者フリオ・セサール・チャベスと4年ぶりに対戦。苦しませる場面を作ったが8回1分41秒TKO負けでIBFに続くスーパーライト級王座獲得に失敗。この時のチャベスは90勝1敗1分だった。

https://www.youtube.com/watch?v=TX3KxBgpSBs

2002年7月30日、ウェイン・マーティンと対戦するが10回0-3(2者が93-97、95-97)の判定負けを最後に現役を引退。

最終的にフリオ・セサール・チャベスとリチャード・スティールは後に国際殿堂入りを果たした。メルドリック・テーラーが失ったラスト2秒は、1000人のチャベスに打たれるよりも深いダメージを残した。

テーラーは試合に負けただけでない。
伝説さえも失った。

信用できないラスベガスのジャッジ、ウィテカーVSラミレスの苦い思い出が、ラストラウンドのテーラーの戦術を狂わせた。走って逃げ切れば勝てたのに、打ち合って最後をとりに行った。傍観者には明らかなミスだが、セコンドは確信が持てなかったのだろう。

そして、運命の16秒、ダウンから本当に色々な事が起きている。

ダウンを奪ったチャベスはすぐに下がったが、確かにニュートラルコーナーにおらず、リングをウロウロしている。それをみたルー・デュバがエプロンに上がりアピール、時間を稼ぎたかったのだろう。ラウンドの終わりを示す赤いライトが点滅している。リチャード・スティールはカウント毎にテーラーと背後を見やりキョロキョロしている。

朦朧としたテーラーはどこを見て何をすればいいのかわからなくなってしまった・・・

その後のメルドリック・テーラーを追いかけていなかったが、アーロン・デイビスに勝って2階級制覇、テリー・ノリスとクリサント・エスパーニャに負けたとあっては強さは維持していたようだ。チャベス戦で壊れたわけではなさそうだ。

しかしあの激闘の果ての絶望、喪失感はテーラーを蝕み、確実に何かを奪ってしまった。

リチャード・スティールは究極の選択を迫られる瞬間に立ち会い、よくあの判断を下したとおもう。

それでも私がレフリーであれば、いや他のレフリーであっても、残り時間を確認し続行。テーラーに最後のゴングを聞かせてあげたに違いない。

2019年6月4日、武装をして警察官に抵抗をしたとして逮捕された。テーラーがアパートからの立ち退きを求めた男性に数日待って欲しいと拳銃を向けてから、
アパートに立てこもったため、SWATが呼ばれると90分後に投降したというもので、加重暴行やテロによる脅迫などの容疑がかけられた。

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プクー

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「ボクシング動画配信局」https://box-p4p.comの管理人です。 ボクシングで人生を学びました。

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