ギジェルモ・リゴンドーのアメリカへの逃走はさながら映画のようなストーリーで進んでいく。
「もし独自の方法があったら、私は船で彼らを外国に送り出します。」
ゲイリー・ハイドは言った。
ハイドはリゴのマネージャーだ。アイルランドの元アマチュアボクサーだったハイドは、キューバがボクシングの才能の宝庫でありマーケットである事に気づいた。
ユリオルキス・ガンボアを含むキューバのアマチュアが2006年に亡命し、プロモーターのアーメット・オナーの元でアリーナ・ボックス・プロモーションと契約したのをみて、ハイドも同じことができると考えた。
2007年3月、ハイドはダイヤモンドを求めてキューバを訪れた。
2001年ベルファストの世界アマチュア選手権で会って以来感銘を受けていたリゴンドーと再会した。ハイド
「誰もが振返って私たちをみていました。シークレットサービスも、誰もが病的なほど疑り深い目で私たちをみていました。それが私を疑り深い人間に変えました。私はこの国(キューバ)で何かやってはいけない事をしているかのようでした。」リゴンドーは2007年の逃走のような失敗はもう二度と出来ないと言った。その時はタイミングがよくなかった。しかしハイドは今後5年間、リゴンドーとの独占管理契約を結ぶことに成功した。リゴンドーの亡命は2007年の失敗でより困難な状況だった。しかしその時期にアーメット・オナーのアリーナ・ボックス・プロモーションから助け舟が出された。リゴンドーとララの亡命のために50万ドルが費やされたという。キューバ人の獲得競争は苛烈を極めた。
2009年、リゴンドーが再び亡命を決意するまでに、ハイドはキューバの世界ジュニア選手権王者のマイク・ペレスの亡命に成功していた。最終的にはその時と同じ手段を使ってリゴンドーをアメリカに連れて行った。
ハイド
「人身売買を生業にする密輸業者がいる。私は彼らの顧客となり、彼らの信用を得る必要があった。」ハイドはメキシコのカンクンに出向いた。そこがキューバとアメリカをつなぐ人身売買のホットスポットであり中間地点だった。キーマンを探して市内あちこちのキューバレストランに出向いた。一週間後、人身売買カルテルのトップ3といわれる人物に会うことが出来た。
「5万ドル」
髙過ぎるとハイドはおもった。ハイドは仲介業者を排除する行動に出た。
ハイド
「この取引の間にキューバ人を介入させ、業者を混乱させるのが得策と考えた。何も知らない漁師をキューバに送りこんだ。彼はキューバでマイク・ペレスと一緒にいました。」カンクンの人身売買カルテルはキャンセルされる事を懸念し価格を下げてきた。
人身売買カルテル
「おい、こそこそ何をしてるんだ。俺たちに頼めば確実にやってやるぞ」「16000ドル」
ハイドは安全かつ確実にペレスをアメリカに送るよう念を押した。そうしてペレスは無事にキューバを出国した。
次はリゴンドーの番だ。
リゴンドーの準備が整ったという知らせを受けたハイドはペレスの時と同じメキシコの人身売買カルテルと連絡をとった。名前を追跡されないようにするため、ハイドは「ミゲル」という偽名を使った。
人身売買カルテル
「よく聞けミゲル、リゴンドーを手に入れるのはイエス・キリストでも誰でもない、お前だ、リゴンドーはお前のファイターだ。」数週間後、ハイドはリゴが無事フロリダ州のマイアミに到着したという知らせを受けた。しかし何かの手違いでリゴンドーはマイアミで別のマネージャーと既に契約してしまっていた。亡命したキューバのボクサーが契約について無知であるか自分に有利にするかは別として複数のマネージャーと契約するのはよくあるケースだった。
ハイドはリゴンドーは自分のダイヤモンドであることを知っていた。訴訟を経てハイドはリゴンドーを他の誰かに取られないように守り続けた。
フレディ・ローチ
フレディ・ローチはボクサーの才能について熟知している。
10年以上にわたり、ローチはP4Pのマニー・パッキャオをトレーニングしてきた。偉大なフィリピン人がはじめてワイルドカードジムの門をくぐり、ローチと快活なミット打ちを繰り広げた日のことを忘れない。パッキャオほどの才能、感性を備えたファイターなどいない。
しかし、それはリゴンドーと出会うまでの事だった。
ローチ
「リゴンドーは私が今までみてきた中で最高のカウンターパンチャーだ。ミットを受けて感銘した。彼のディフェンスを突けなかった。何度も試みたけど出来なかった。ジムでの初日にリゴンドーはパッキャオとスパーリングがしたいと言い出した。けれど私はそれを許しませんでした。マニーにそんな事はして欲しくなかった。マニーはリゴンドーより大きくて攻撃的な男だ。こっちがおもっているよりやり過ぎてしまうんだ。
しかしリゴンドーは今までみてきた中で最も偉大な才能の一人だよ。」
ローチは少し沈黙した後言い直した。
ローチ
「恐らく史上最高だ。」
Vol.3に続く・・・
人身売買カルテル・・・まるで映画さながらだが、血が出ないのが救い、現実と架空の差か。キューバ政府にも、亡命を許さない厳格さと、多少のお目こぼしがあるように感じる。それが世界にキューバを知らしめることになるのであれば。個人の精神の自由までは奪えない。
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