半世紀の月光/ジョージ・フォアマン

私がみてきたボクシングで最もクレイジーな世にも奇妙な物語といえば、マニー・パッキャオの常軌を逸した複数階級制覇とジョージ・フォアマンの復活だ。28歳で一度は引退するも、45歳にして約20年ぶりに世界ヘビー級王者に返り咲くなんてありえない事だった。

ジョージ・フォアマンは1976年の古典的な戦いでロン・ライルと真っ向から拳を交えていた。試合は5回KOでフォアマンが勝ったが、ロン・ライルこそ半世紀に渡る長いキャリアにおいて最強の男だったと語った。

恐らく、あらゆるスポーツの歴史においても、ジョージ・フォアマンほど驚くべき変容を遂げた2度のヘビー級王者はいない。

10代の頃の犯罪、リハビリテーション、オリンピック金メダル、ジョー・フレイジャーは朝食で、ケン・ノートンはランチ、5人のジャングルでの一夜の乱闘はほんの1幕に過ぎなかった。10年の幕間を経てフォアマンは得体の知れないパンチを備えた宣教師としてリングに戻ってきた。王冠を取り戻す時が来たのだ。

1994年11月5日、WBA IBF王者のマイケル・モーラーを10回ノックアウトした試合は永遠にスポーツ史に刻まれる瞬間だ。45歳のフォアマンがザイールのキンシャサでモハメド・アリに負けてから約20年の時が過ぎていた。

それはまるで古いフランク・シナトラの歌のように聞こえる。しかしフォアマンは強盗であり競争者であり王者であり宣教師、伝説の王だった。ハードパンチを持って生まれたテキサスの男は破壊者として大成功を収め、キャリアの終わりには2億ドル以上稼いだと推定される。

しかしそれとは対照的に彼と同時代に生きたライバルはもはや同じではなかった。ソニー・リストンは40年以上も前に死に、ジョー・フレイジャーもロン・ライルももういない。ジミー・ヤング、スコット・ルドゥ、トミー・モリソン、そして偉大なるケン・ノートン・・・(この記事が書かれた頃は健在だったモハメド・アリも)

フォアマンはライバルたちに想いを馳せながら、壁にかかる鏡よ、鏡、ケン・ノートンこそ最もフェアな紳士だったと述べた。

フォアマン
「みんなモハメド・アリが一番だと言うだろう。でもみんなケン・ノートンの前でシャツを脱ぎたくないと言う。彼が一番怖かった。ノートンとリングで対峙し鍛え上げられた筋肉をみるのは恐ろしい事だった。私との試合でみたノートンよりも実際ははるかにいいファイターであり、モハメド・アリやラリー・ホームズとの試合でそれを証明しただろう。

ケニーは亡くなる数カ月前に脳卒中にかかり、私たちはラスベガスのWBC総会に参加していた。そこでの賞金を彼の看護にあてたのでお金に困ることはなかっただろう。みんな敬意を払ってケニーを見舞った。私が出会った人の中でケニーが一番人格者であり愛国者だった。素晴らしい男だった。」

その間もずっとフォアマンは人生の仕事を続けながら減速する兆しをみせていない。ボクシングのグローブと共にHBOのマイクも吊るしたが、フォアマンは故郷で宣教師を続けている。

フォアマン
「私は今もテキサス州ヒューストンで奉仕活動をしている。1977年以来私はプロの宣教師、主イエスキリストの伝道者なのです。この仕事だけでは家族、子供たちを養うことができなかったので、ボクサーとして月の光を浴びねばならなかったのです。私の小さな物語はここにあるから今でもヒューストンにいてユースセンターを運営しています。」

子供たちといえば、一体何人のジョージがここにはいるのだろう

フォアマン
「6人いましたが今では8人です。2人の孫にもジョージと名付けたのです。だからジョージ①からジョージ⑧までいるのです。ボクシングのせいで記憶障害になっても私は子供たちの名前を決して忘れません。だってみんなジョージなんだから。」

通算戦績75勝68KO5敗

信じられないようなキャリアと忘れがたき功績

ベスト・ボクサー モハメド・アリ

スキルがあり最高のジャブを持っていた。バックステップ、サイドステップが上手くてジャブが厄介で捕まえるのが困難だった。

ベスト・パンチャー ロン・ライル

強く殴られた。それでも私は怪我をしなかったけど。ジョー・フレイジャーも左フックで私を殴ったけどライルのようには打つことができなかった。
アリが私を倒したけどあれは疲れきっていたからなんだ。ライルのパンチが最もハードだった。彼は恐れることなく向かってきた。
スパーリングパートナーのソニー・リストンを除いて、フレイジャーやアリでさえもバックステップを踏むけどライルは違った。

ベストディフェンス モハメド・アリ

ロープ・ア・ドープで消耗作戦ばかりしていたわけじゃない。彼は多くの罰を受けていたからね。ジャブやパリングが上手かった。彼はディフェンシブな戦い方を知っていた。
ロープ・ア・ドープをしているのはアリじゃなく私がさせられていたんだ。ジミー・ヤングも賢くて素晴らしいディフェンスマスターだったけどアリと比較しようとはおもわないね。

ハンドスピード モハメド・アリ

彼の右が今までで一番速かった。まさに速かった。足も速かったね。あんなに速いヘビー級は想像できなかったよ。

ベストフットワーク ジミー・ヤング/イベンダー・ホリフィールド

ジミー・ヤングかイベンダー・ホリフィールドだね。私と戦った時のアリはそこまで速くなかった。ヤングは速かった。そしてホリフィールドも速かったけどアリとは違ったね。ホリフィールドはパンチも速かったね。彼の連打は速かったけど全部見えていたんだよ。

ベストチン ジョージ“スクラップアイアン”ジョンソン

たくさん殴った私の手が怪我をしたほどだ。打たれ強いやつだった。レフリーストップで勝ったけど本当の意味で彼を倒したわけじゃないね。

ベストジャブ ソニー・リストンとモハメド・アリ

リストンとのスパーリングが私の人生で最も危険行為だったんだ。リストンに対して何を試みても通用しなかった。リストンのように俺に対して戦える人はいなかった。
彼が私にジャブの重要性を教えてくれたんだ。不器用な私に毎日熱心に教えてくれた。俺の頭をぶっ叩くことができたのに彼はしなかった。かなりいい友人だったからね。
リストンの態度を見習って相手を威嚇していたんだ。”バッドジョージ”だよ。あれはリストンの真似をしていただけさ。でもそれはジムでのことだ。
実際の試合ではアリだね。彼はよく訓練された左ジャブを持っていた。ノートンもいいジャブを持っていたけど戦術ミスをしたんだ。ノートンがアリのように戦っていたら私には大変な試合だったろうね。

https://www.youtube.com/watch?v=vz3tPjLhw2U

ストロング ロン・ライル

今まで戦った中で最強の男だった。シャノン・ブリッグスとかは並の選手だから何も印象はないけどイベンダー・ホリフィールドは強かった。彼が俺たちの時代にいてもきっとやれただろう。

スマート モハメド・アリ

普通なら怯むようなボディを当ててもアリはケロッとしているんだ。こいつとはまともに打ち合わないとわかっているんだ。
ラウンドが過ぎる度にアリのペースになって俺に勝機は消えていった。アリのコーナーでアンジェロ・ダンディーが「アリ、ロープで遊んでるんじゃねぇ」と叫ぶのが聞こえたよ。
俺は疲れ切って呼吸もできないほどだったけど常にビッグパンチでアリを倒そうとしていた。一発を狙っていた。アリを追い詰めようとしてロープに身を投げつけていたよ。

総合 ロン・ライル

俺のキャリアの中で最も過酷な試合をもたらしたという点でライルと言わなければならないだろう。彼は俺を強く殴り俺はダウンした。ダウンしたから彼をなんとか倒し返すことができた。あの試合が人生で一番ハードだった。

モハメド・アリだと言えば簡単だろうけど、あの試合では俺は疲れ切っていたんだ。もう少しアリに敬意をもって戦術を練っていればエネルギーを蓄えることができただろう。ロン・ライルだね、もう少しで俺は殺されそうだった。

昔は良かった、昔の方が強い、最近の若者は・・・と言うのは耳にタコ、タブーだが、それを地で証明してみせたジョージ・フォアマン。

「老いは恥ではない、あきらめず挑戦し続ければ輝き続けられる」

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