「頭の中に脳があり、靴の中に足がある。あなたは自分の選択に従って自身をどのようにでも操縦することができます。自分で決断して行動すればいいのです。」by Dr. Seuss
ブライアン・ビロリアはグローブを身に着けた頃から期待されたファイターだった。輝かしいアマチュアキャリアの元オリンピアンは、プロでも期待通りに勝ち続け、2005年9月10日にWBC世界ライトフライ級王者のエリック・オルティス(メキシコ)を初回KOで破り王座獲得に成功した。
その電撃的なKOスタイルは「ハワイアンパンチ」と呼ばれた。その後、オマール・ニーニョ・ロメロとエドガー・ソーサに負け、ビロリアは期待外れだったとファンは離れていった。
それ以来、ビロリアは5連続勝利し、初めて自由に、自分のためだけに戦った。世界王者だった頃の、何千人ものサポーター、大きな舞台とはほど遠い、小さな会場、未知のファイターの前座でも戦った。世界王者に返り咲くこと以外何も気にしなかった。
2009年4月19日、フィリピンのケソンにあるアラネタ・コロシアムで8度防衛中のIBF世界ライトフライ級王者ウリセス・ソリス(メキシコ)と対戦し、11回2分56秒KO勝ちを収め、2度目の王座を獲得。しかし皮肉なことに、この王座は自分のルーツであるフィリピンの群衆の前であっさりと失った。
2010年1月23日、カルロス・タマラ(コロンビア)と対戦し、12回TKO負けを喫し王座から陥落。試合後の控え室で意識を失い、病院に搬送されたが幸いな事に大事には至らなかった。逆転負けを喫するまで、ビロリアは試合を支配し続け、ファンはノックアウトを期待していたが、レフリーのブルース・マクタビッシュが試合を止めなければ、それがビロリアの最後の試合になっていたかもしれない。
ビロリアは明らかに疲れ果てていて、目は虚ろだった。
ブライアン・ビロリアは今、デビュー当時の期待に満ちた元の自分に戻ろうとしている。現役続行、引退、どちらも視野に入れている。もう、人々の大きな期待を背負って戦う必要はない。自分の頭、足を使い、自身で決断を下せばいい。ファンはビロリアを誇りにおもっている。ビロリアは自分自身を愛することを学ぶ時が来たのだ。
続き
2011年7月16日、ホノルルのニール・ブレイズデル・センター・アリーナでWBO世界フライ級王者のフリオ・セサール・ミランダと対戦し、12回3-0(117-110、114-113、115-113)の判定勝ちを収め王座獲得に成功、2階級制覇を達成。
2011年12月11日、パシッグにあるイナレス・スポーツ・アリーナで元WBA・WBO世界ライトフライ級スーパー王者のジョバンニ・セグラと対戦し、右顔面負傷によるレフェリーストップとなる8回0分29秒TKO勝ちを収め、初防衛に成功。
2012年11月17日、カリフォルニア州ロサンゼルスのスポーツ・アリーナにてWBA世界フライ級王者のエルナン・マルケス(メキシコ)と王座統一戦を行い、10回1分1秒TKO勝ちで王座統一に成功、WBA王座の獲得並びにWBO王座の3度目の防衛に成功。
2013年4月6日、マカオにあるザ・ベネチアン・マカオ内コタイ・アリーナでファン・フランシスコ・エストラーダと対戦し、0-3の判定負けを喫しWBA王座の初防衛に失敗、WBO王座の4度目の防衛にも失敗し王座から陥落。
2015年10月17日、マディソン・スクエア・ガーデンにてゲンナジー・ゴロフキンVSデイビッド・レミューの前座で、WBC世界フライ級王者ローマン・ゴンサレスと対戦。3回にキャリア初のダウンを奪われるなどゴンサレスに攻め続けられ9回2分53秒TKO負けを喫しWBA・WBOに続く王座獲得に失敗。
2018年2月24日、カリフォルニア州イングルウッドのザ・フォーラムで行われた「SUPER FLY2」で井岡一翔の王座返上に伴いWBA世界フライ級1位のアルテム・ダラキアンとWBA世界フライ級王座決定戦を行い、12回0-3(3者とも109-118)の判定負けを喫し4年10ヵ月ぶりとなるWBA王座への返り咲きに失敗。
WBC世界フライ級ユース王座
NABF北米フライ級王座
WBC世界ライトフライ級王座(防衛1)
IBF世界ライトフライ級王座(防衛1)
WBO世界フライ級王座(防衛3)
WBA世界フライ級スーパー王座(防衛0)アマチュア
230勝8敗プロ
45戦38勝23KO5敗2分現在
ウェルター級のクリス・ヴァン・ヘイデンのコーナーにおなじみの顔があった。4度の世界王者、ブライアン・ビロリアだ。38歳でボクシングの第一線から身を引いたビロリアはトレーナーとして愛するボクシングに戻ってきた。キャリアの中で一流のフレディ・ローチやロベルト・ガルシアなどから学んだたくさんの指導法を蓄積しているのだ。
ビロリア
「ボクシングに人生を捧げてきました。私はこれからのファイターにその経験を伝えていきたい。」ビロリアが最後にリングに足を踏み入れた時とは心境が違うようだ。
5度目の世界王座獲得を目指した試合でアルテム・ダラキアンに敗れ、ビロリアは2018年2月に現役を引退した。
ビロリアはボクシングを通じ、「恐怖」こそが大事でそれを頼りに戦ってきたが、最後のダラキアン戦ではその「恐怖」が欠けていた。何も感じず、12ラウンドを通じ、ビロリアは厄介に動くダラキアンに対し負けるためにかなり無頓着な努力をした。
ビロリア
「試合には集中していたつもりですが、体が反応していなかった。常に1歩か2歩、遅れていた。プロになった時から、パイロットとしての感覚が鈍ったり、ファイトへの情熱を失ったら終わりだとおもっていましたが、あの試合がそうでした。」ビロリアはその時点まで記憶に残るキャリアを持っていた。幼いころからボクシングの旅を始め、名高いアマチュアとしてノニト・ドネアやグレン・ドネアを蹴散らし、2000年にはオリンピックにも出場した。プロではライトフライ級、フライ級、2階級で世界王者に輝いた。
ビロリアのプロキャリアは並の王者の業績をはるかに超えたものだ。マジソンスクエア・ガーデンだけでなく、日本、マカオ、フィリピンなど至るところで演奏を奏でた。
しかし、ボクシングに人生を捧げた男がグローブを置いた今、次に何をすべきか考えなければならなかった。今まで経験したことのない、普通の仕事に就くことも考えたが、やはりボクシングしかなかった。
ビロリア
「それについて考えるのも怖かった。妻と相談しました。長い間、ボクシングの知識と経験を学びました。私は若いファイター、私を選んでくれた男たちにその知識と経験を伝えたい。」トレーナーとしての人生に身を浸すと決断し、家族や仲間とロサンゼルスでジムを開こうとしたが難航した。基本的にボクシングジムはお金がかかり、ほとんど儲からない。
昨年の夏にビロリアは篤志家から連絡を受け、魅力的なオファーを受けた。チャーチルボクシングクラブ(以前のワイルドカードウエスト)を所有するピーターバーグからの提案だ。
ビロリア
「ピーターのジムでトレーナーをしないか、ここから始めよう、経営や家賃など気にせず、トレーニングに集中するだけだと言ってくれました。」クリス・ヴァン・ヘイデン以外にも、アルゼンチンのプロスペクト、アルベルト・メリアンや元世界王者のレイモンド・ベルトランなども指導している。
ビロリア
「リングのこちら側、ロープの外にいるのも悪くはない。とても楽しいです。ボクシングにもっと没頭しています。」ビロリアは夢を追いかけた18年間を経て、新たな自分の宿命を見つけた。トレーナーとしての収入は時に現役時のファイトマネーを上回るともいう。ファイターは様々な取り巻きに様々な形で搾取されることも多いからだ。
クリス・ヴァン・ヘイデン
「ビロリアは4度世界王者になった偉大なキャリアの持ち主です。彼は何をすればいいのか全てわかっています。だから、コーナーに彼がいるだけで安心する。彼が教えてくれることに感謝し本当に楽しんでいる。ファイターとしてトレーナーとしてもっと深く関わっていきたい。」
ブライアン・ビロリアは、マイケル・カルバハル以来、今の井上尚弥のようなスター性を秘めた軽量級だった。
アマチュア時代はレジェンドのノニト・ドネアに競り勝って五輪代表を手にした。誰がみてもデンジャラスで凶悪な「ハワイアンパンチ」で軽量級離れしたKO劇をみせてきた。だからこそ、長いキャリアで日本人との対戦歴がないのではないか。
しかしビロリアにもプロの洗礼が待っていた。
能力では勝るのに、メキシカンのプロらしい粘りの反抗にあい、後半にガス欠で逆転負け、長期王者にはなれなかった。奥の深さに欠けていた。それでも最後まで、ファン・フランシスコ・エストラーダ、ロマン・ゴンザレスら、可能な限り軽量級のビッグネーム全てと凌ぎを削ってきた。ビロリアなら何かやってくれそうだ、ハワイアンパンチはいつでも魅力的だった。
最後の試合、アルテム・ダラキアン戦は、彼のルーツであるフィリピンのドニー・ニエテスとの共演で、共に練習し、共に勝つのではないかと期待していたが、ニエテスだけが生き残った。
ビロリアは日本人にとって身近な階級のスターであり、私にとっては憧れでもあったが、何かの縁で一時帝拳ジムと関わり、山中の前座で生で見届けることができた。しかしもう全盛期の彼ではなかった。そろそろ日本人でも勝てそうに劣化していると感じ悲しかった。
間違いなく天才、ボクシングの神に祝福された男だったが、遂に主役、伝説レベルにまではなれなかった、もっと強かったはずのキャリアともいえ、こういうキャリア、ファイトは非常に参考になる、考えさせられる。
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