陽のあたらない部屋/(アメリカン・ドリーム)デビッド・リードVol.2
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「私は目が悪く・・・もう戦えません。ボクシングは好きです。子供の頃に・・・ボクシングが好きになりました。・・・しかし十分稼ぐことができませんでした・・・だから、今はボクシングとは何も関係がありません。」

孤独なリードの部屋にはボクシング雑誌や本も多くあるという。ボクシングに愛され、ボクシングに捨てられた男を救うのもまたボクシング、彼を愛する仲間だった。

ジェシー・ハート

1970年代にミドル級のプロスペクトだった(サイクロン)ユージン・ハートの息子で若きプロスペクトであるジェシー・ハートは、今でもリードと近い関係を持つ一人だ。ボクシング一家という血筋ではなく、デビッド・リードのオリンピックでの活躍こそが自身がボクシングにのめりこむきっかけになったと言う。

試合に勝つとハートはロッカールームに戻るのも待ちきれず、携帯片手にリードに自分の勝利を報告した。リードは単なる成功の象徴というだけでなく、ハートやその他多くの若きフィラデルフィアのボクサーにとってカリスマだった。デビッド・リードは彼らのメンターであり兄だった。

ハートがリードに自分の試合を観てくれと頼むたびに、リードはその申し出を辞退した。

ハート
「デビッドの今の状態は悲しいです。私は本当のデビッド・リードを知っています。けれど彼は左目にコンプレックスがありほとんど外出しないのです。彼はまだ昔と同じ事をしています。朝起きて走っています。去年デビッドと一緒にボクシング映画をみました。けれど最近はあまり人と話をしなくなりました。私は今でもデビッドと話す数少ない知り合いの一人です。去年のオリンピックトライアルで私が勝った時はデビッドが私に力を貸してくれたのです。

デビッドと一緒にボクシングがしたいけど、彼は拒否するでしょう。彼は誰にも見られたくないのです。それは彼自身の問題で私がどうこうするのは難しいです。デビッドの存在こそが私のアマチュアボクシングの実績でもあるので、デビッドのために何かがしたい。私はいつもデビッドに憧れていた。試合に勝つたびにデビッドに報告するのが嬉しかった。私はデビッドの事を兄だとおもっています。デビッドが大好きです。今の彼をみるのはとても辛いです。」

チャック・ムサチオ

チャック・ムサチオはデビッド・リードのような男になりたいと憧れ、リードの足跡をたどり、かつて彼がトレーニングしていたマルケットの北ミシガン大学のキャンパスにあるオリンピック教育センター(USOEC)でリードのコーチ、アル・ミッチェルの指導を受けた。

ムサチオはオリンピック出場の夢を叶えることが出来なかったが、大学で初等教育の学位と指導カウンセリングの修士号を取得した。しかしリードに憧れた彼は教職を捨てプロボクシングの道を選んだ。

フィラデルフィアのルーツを持つ、サウスジャージー育ちのライトヘビー級、ムサチオはデビッド・リードとの出会いを大切にしている。しかしリードは初対面のムサチオを前によそよそしく不安な態度を示した。

ムサチオ
「デビッドは誰もが自分から何かを盗んでいくという妄想にかられていました。かつて財布など全てが入っていたジャケットをなくして一週間経ってもみつけることができませんでした。彼はそれを家の前に置いていただけだったのですが、本当に動揺して誰かに盗まれたと言っていました。

デビッドが悪化していく姿をみるのは辛いです。極端なものではなく、特定の記憶はあるのです。アマチュア時代のことは覚えていて話してくれるのに日々のことは忘れてしまうのです。

物事を整理する能力が欠けていることがわかりました。彼は動揺して簡単にモノを失くしてしまうので友人として助けたいとおもいました。彼は時がたつのを忘れることがありました。ボクシングをはじめる前からそうだったという人もいました。はじめはデビッドのことをよく知りませんでしたが次第に人々が間違っていることがわかりました。デビッドは食事中よく喉を詰まらせ、むせるのですが、症状はどんどん悪くなっていきました。」

2005年中旬に事件は起きた。

リードはその日の事をほとんど覚えていない。元トレーナーのミッチェルによると、記録的な猛暑となったマルケットが熱波に見舞われていたその日の午後、リードは車に閉じ込められた。窓は閉じられ、リードは誰からの電話にも出なかった。最終的に誰かが発見し、熱中症を恐れて救急車を呼んだ。

リード
「それが私に起きたことです。車で本を読んでいて病院で目覚めました。それが起きなければ私は今この場にいないでしょう。その時みんなが私の病気を知りました。彼らが私を助けてくれなければ、病気の治療はされなかったでしょう。私はブラックアウトしました。何が起きたのか本当に覚えていません。」

ミッチェルは事件当時、旅行中だったが本人よりも様々なことを覚えている。

ミッチェル
「心肺停止状態でした。USOECのディレクターから電話を受けました。デビッドのアパートの駐車場で発見し警察を呼んだそうです。マルケットは記録的な猛暑日で車内は100度を超えていたといいます。心臓の止まったデビッドを蘇生させるために電気ショックを与えました。」

ムサチオは話を聞いて病院にかけつけた。デビッドは病院のベッドに座り彼の身に起きたことを理解しようとしていた。

ムサチオ
「入院して数日後にデビッドを見舞いにいきました。デビッドに私が誰なのかわかるかと聞いたら、虚ろな視線で「いいえ」と言いました。それから彼は笑い始めました。

医者はデビッドの症状は悪化するだろうと言いました。病気は進行していました。とても悲しかった。デビッドはフィラデルフィアの誇りです。彼はまだオリンピックの金メダルとチャンピオンベルトを持っています。でもデビッドはこうも言ってました。

「金メダルは祝福であると同時に呪いでもある」

ハートもムサチオもミッチェルも、デビッドは現役時代、周囲の人々によって何十万ドルも搾取されてきたと言う。

ハート
「デビッドを利用してきた人がたくさんいます。悩ましい事です。それがデビッドが人間不信になった大きな理由です。」

ムサチオ
「私はいつもデビッドの傍にいるだけでいいです。彼が大好きです。望むのは元気なデビッド、それだけです。けれど大勢の人がデビッドに手を伸ばし搾取しました。それが今日、デビッドがこのような状態になった理由なのです。いい人間に恵まれなかった事が残念で悲しいです。」

Vol.3に続く。

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