そして最終章。ギジェルモ・リゴンドー来月39歳の旅はまだ続く。まだ終われない。やり残した仕事があるのだ。彼の長い航海を巡る灰色の海の向こうに岸は見えない。
ホエル・カサマヨールが1992年のバルセロナオリンピックで金メダルを獲得した時、彼は20000ドルの小切手を受け取った。
キューバに帰国すると政府はカサマヨールの小切手にサインを求めた。
ボクサーの取り分:300ドル
さらに、カサマヨールはかつてのテオフィロ・ステベンソンや未来のリゴンドーがそうであったように、金メダルを獲得した事で国から自動車が与えられると期待していたが、代わりに支給されたのは中国製の赤い自転車だった。
「カサマヨールはミルトン・フリードマン」が誰なのか知らない。
マイアミのマネージャー、プロモーターであるエンリケ・エンシノーザは「資本主義と自由」の著者であり経済学者に言及しながらこう言った。
エンシノーザはボクシング界はお金が全てを支配していることをよく知っている。ボクサーとお金が混ざると危険なカクテルになることも。
キューバのボクサーが自分自身を商品として売り込むのは当然の経済原理であり、それがキューバ革命から脱出し、自らの夢を実現する唯一の方法だと考えている。そして、そんなアスリートの才能に便乗し金儲けを考える者がいても、それはリスキーな投資と変わらない。
エンシノーザ
「野球チームやサッカーチームを買う金はなくてもボクサー個人を買う金はあるのです。」キューバのボクサーを買うというのはどういう事なのだろうか。
エンシノーザ
「キューバのボクサーに30万ドル渡すと、彼は突然結婚し、妻は夫に殴り合いではなくタクシーの運転手になって欲しいと願う。投資家はただ、ボクサーが自分にもマネージャーにもプロモーターにも十分な稼ぎをもたらすべく出世し、ビッグマッチをして欲しいと願う。」この経済原理は二重契約や犯罪組織との繋がり、約束の反故、内紛や裏切りなど、多くの問題を孕んでいるが、ボクサーを財政的にコントロールするマネージャーはモラルとマキャベリズム(目的のためには手段を選ばない)で揺れ動きながらも少なくともボクサー自身よりは利己的、私利的ではない。(ボクサーの利益をきちんと考えている)
エンシノーザはキューバのボクサーに大金を渡すことは人間を土星に連れて行くようなものだと言う。
エンシノーザ
「彼らはお金の使い方を知らない。ユリオルキス・ガンボアは契約金でベントレーを買った。ジムに行くとガンボアはいつも首に大きな金塊のネックレスをぶら下げている。重すぎて彼は首のヘルニアになるだろう。」資本主義が革命の妨げになると考えられてるキューバのような共産主義の国でさえ、お金は王様だ。それを認めたくないキューバのボクサーも同様だ。
バトラー
「ステベンソンもフェリックス・サボンもインタビューではキューバ革命を、カストロを賞賛しつつも、ひとたびカメラを止めれば、いかにお金に無関心かを語ることで心の奥ではお金を欲している。それが人間の本質だ。アメリカ人のアスリートは時に何百万ドルの契約を結んだりします。金額は重要でなくある種のゲーム感覚だと言ったりするが、キューバ人にとっては人生がかかっています。需要がなければもう用なしです。」
ボクサーがキューバに留まるにせよ去るにせよ、革命から逃れようがカストロの忠犬になろうが、お金には大きな意味があるのだ。
お金とはオリンピックの金メダルに対する褒美としてリゴンドーに与えられたバナナイエローの三菱であり、お金とは革命から遠く離れた90マイルの水域で手に入れた片道切符である。(メキシコカンクンの密輸業者)
キューバを離れることが自分にとって価値があるのかどうかを最終的に決定するのもお金だ。
男の自由はいくらですか?
彼が愛する人々はいくらですか?
人生の目標を達成するチャンスを買うために、あなたは何を売りますか?2010年11月13日、リゴンドーはダニーカウボーイスタジアムの42000人の前で試合をした。マニー・パッキャオがアントニオ・マルガリートを破壊した試合の前座だった。アマチュア時代の頂点でさえ、テキサスのその夜と比較することはできない。
試合が終わり、駐車場でリゴンドーに遭遇したバトラーはホテルまで車で送ろうと声をかけた。小さな体でベルトを抱えているリゴンドーは孤独で悲壮感すら漂っていた。
バトラー
「なんか独りぼっちにみえるじゃないか、仲間に感謝したり一緒に祝う気持ちはないのかい?」バトラーが言い終わるのを待たずにリゴンドーは言葉を返した。
リゴンドー
「だって俺は独りぼっちじゃないのかい?」返す言葉がなかった。
彼の友人はどこにいますか?
彼の妻はどこにいますか?
彼の息子はどこにいますか?夢を実現するために犠牲にしなければならなかった彼の近しい人々はどこにいますか?
リゴンドーの母親は彼がアメリカにいる間に亡くなった。
父親は革命に反した息子を非難した。
息子は病気がちだ。1100マイル離れた、ハバナ郊外にあるホセマルティ国際空港の近く、紺碧の空の下に小さな緑の2階建がある。そこに暮らす母親と2人の少年がリゴンドーの妻のファラオ・コリーナと2人の息子だ。政府の施設に隣接するこの家には24時間、2台の監視カメラがセットされている。
飛行機が人々の自由をのせてキューバを飛び立つ。
かつてカストロが誇った王冠の宝石はこの地を去ったが、妻の人生は続く。
コリーナと2人の息子はここで暮らしながら父の帰りを待っている。
いつの日かまた、リゴと一緒に暮らす日を夢見て。
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