タリク・アブドゥル・ハックはコモンウェルスゲームズの表彰式で涙を流し、2人の世界ヘビー級王者と戦った後、ボクシングから去った。
2010年にボクシングの銀メダルを母国に持ち帰った最後の男として、ハックはトリニダード・トバゴで尊敬されるべき男だが、宗教的過激主義に陥ったことが彼のリングキャリアを汚してしまった。ハックは4年後、イスラム国に参加するためシリアに向かい、2015年に殺害された。
トリニダード・トバゴには、ハックに代わる、東京オリンピックで期待されるヘビー級、ナイジェル・ポールという新しいスーパー ヘビー級の候補がいるが、2012年イギリスのオリンピックのスター、アンソニー・ジョシュアの元対戦相手であるハックの功績には届かないだろう。
ハックのナショナルコーチ、レイノルド・コックスは回想する。
「もしタリクがボクシングを続けていたら、彼はおそらく今後数年間、本当にうまくやっていたと思う。」
優秀なアマチュア選手であった彼は、2011年の世界選手権でジョシュアとの1回戦で白熱の試合を演じたが、そのわずか数ヶ月前には、ニュージーランドの人気若手選手ジョセフ・パーカーに屈辱的な敗北を喫している。
格闘技の才能、ハックは10代の頃から、空手、柔術、テコンドー、ボクシングなどを通じ地元の新聞では「スクールボーイの拳闘士」と評されていた。同時に弁護士になるための勉強もしていた。
ハック
「学校やトレーニングをしていない時は、食べたり寝たりしているだけです。私の年齢では奇妙に聞こえるかもしれませんが、友人は私を応援してくれています。誰もが選択肢があると信じているし、私は今これらのことを選択しています。」ハックの叔母は弁護士だったが、父親のヤクブがボクシングのコーチをしていたため、学業は二の次になったが、ハックは攻撃性をスポーツにのみ注ぎ込んでいた。10代のナショナルチャンピオンは、プエルトリコ人を45秒でノックアウトするなど、印象的な勝利を連発し注目を集めていたが、身長185センチの彼は特に堂々としたヘビー級とはいえなかった。
2009年にシニアデビューを果たしたハックは、キューバの世界王者、エリスランディ・サボンから厳しいレッスンを受けたりしながら、ロンドンオリンピックでは金メダルをとるアンソニー・ジョシュアを早々に敗退寸前まで追い込んでいった。
ハックは、コモンウェルスゲームズのトリニダード・トバゴチームの一員としての地位を確保した。パキスタン出身の対戦相手を10-1で圧倒して勝利した。次の相手は、後にプロのWBOヘビー級王座を獲得することになるジョセフ・パーカーだった。
レイノルド・コックス
「私はその試合のコーナーにいました。タリクが勝ったのは、彼の決断力だと思う。彼はパーカーを追いかけ続けた。パーカーはパンチ力に頼っていたが、ハックはポイントを取ろうとしていたし、本当に良いディフェンスをしていた。見ていて本当に良い試合だった。」
パーカーと7-7の同点で試合を終えた後、ハックの正確なパンチは5人のジャッジのうち3人に支持され勝利を得た。カメルーンのオリンピック選手ブレイズ・イェプモウにポイントで勝利し、地元で人気のパラミジート・サモタと金メダルをかけて争った。
インド人ファイターのサモタは地元判定のような内容で金メダルを獲得した。
銀メダルが首にかけられている時、ハックは泣いていた。彼の最後の戦いはジョシュアとの試合だった。
世界アマチュア選手権の1回戦で引き分けとなり、鼻の怪我に悩まされながらも、ハックは序盤のラウンドで粘り強く立ち向かった。ハック
「タフな相手だったが、振り返ってみると、ジョシュアはスロースターターだったし、アマチュアキャリアも少なかった。試合が進むにつれて、彼に勢いを与えてしまったかもしれない。」ジョシュアは、後にプロの世界王者への道を開くことになる戦いを終わらせる力を発揮した。
ハックは第3ラウンドと最終ラウンドでダウンした。彼のボクシングキャリアはほぼ終わりを告げた。
トリニダード・トバゴに戻ってきたハックは、スポンサーとの財政問題に巻き込まれ、2012年のロンドン大会の予選から外れることになった。
ハック
「トリニダードのボクシングは意味がないし、誰も気にしていないような気がする」世間の自分に対する評価に幻滅したハックは数年後、イスラム国の新兵についての記事やドキュメンタリーで再び登場することになる。
シリアとイラクのISIS支配地域へのアクセスを許可された最初の欧米人ジャーナリスト、ユルゲン・トーデンホーファーは、2014年12月のハックとの出会いに愕然とした。
トーデンホーファー
「私はシリアとイラクでスウェーデン、フランス、アメリカなど、世界中の人々を見てきました。カリブ海から来た男はとてもイケメンだった。とても魅力的だった。おしゃれで、レイバンのメガネをかけていました。ここで何をしているの?前は何をしていたの?と尋ねました。」ハック
「カリフ(イスラム国の支配者)の言うとおりにするつもりだ。」ハックは、イスラム国の勧誘率が最も高いトリニダード・トバゴから旅をしてきた驚くほど多くの男たちの中にいた。ハックには妻と妹のアリヤがいたが、宗教的過激主義に没頭するきっかけとなったのは、銃撃事故で父親を亡くしたことだったと明かしている。
ハックは2015年に殺害されたことを確認しているが、その数ヶ月前にはシリアでの爆撃中に重傷を負い、才能の源である片手を失っていた。
トリニダード・トバゴでは、ハックの名前は、スポーツ界での実績だけで語られている。コックスは、193センチの長身ファイターであるナイジェル・ポールが、メジャー大会でも表彰台に上る可能性があると楽観的に考えている。30歳のポールはリオ五輪ではすぐに敗退したが、コックスはポールがトリニダード・トバゴのボクシングの評判を高めてくれることを期待している。
コックス
「より多くの人がボクシングを志すためのお手本が必要なんだ。ポールはとてもまともな男だ。優しくていい人だよ。でもスポーツではそれが仇になるかもしれない。ボクシングでは、時には非常に凶暴になる必要がある。アグレッシブになる必要がある。それでもお手本として ナイジェル・ポールは、ボクシングの知名度を上げるために必要で優秀な人材だよ。」
プロの世界でキラキラ輝く男だけが一流のファイターではない。
巨額の億万長者になる者もいれば、生きていくのもままならないトップファイターもいる。
井上尚弥に2戦2勝のキューバ人や、フロイド・メイウェザーに土をつけた男、それに勝って金メダルを獲得したのはたしかタイ人だ。
全ての偉大なボクサーに敬礼
タリク・アブドゥル・ハックに合掌
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