怖くて観れない試合がある。ナイジェル・ベンVSジェラルド・マクラレン。
ジェラルド・マクラレンは恐らく史上最高のパンチャーで今のゴロフキン以上だろう。狂犬のようなベンが牙をむき、マクラレンは障害者となってしまったが、あまりに壮絶な試合で今ならベンのレフリーストップ負け、あるいは反則負けだろう。なぜレフリーは試合を止めなかったのか、そしてなぜベンは諦めないのか、あそこまで我慢できたのだろうか。
そんな怖さの象徴のナイジェル・ベン、ニックネームは「ダーク・デストロイヤー」だが、唯一無二の個性でクリス・ユーバンクと並んでイギリスのミドル級の頂点に君臨する男。その名は今後も輝きを失せない。
ナイジェル・ベン
「ダグ・デビットがリングでこう言った。「お前を倒してやる。」俺は答えた。「俺は倒れるかもしれない、でもお前は倒れたまま起き上がることすら出来ない。」ナイジェル・ベンについては何の口実もいらない。元2階級の世界王者は英国のミドル級の歴史において、恐らく最も魅力的な時代に多くの人々の心を無条件に魅了した。そして彼の熱いハートはいつも躍動していた。
「ダーク・デストロイヤー」はデビューから22連続ノックアウト勝利、2ラウンドを超えたのはたった3度だけだった。狂暴で無慈悲な元兵士は致命的なパワーショットで相手を痛めつけた。敵なしだった。
1989年5月、才気溢れるミドル級のマイケル・ワトソンがベンに初めて黒星をつけたが、その後アメリカでダグ・デビットを下しWBOミドル級王者になった。
初防衛戦で後の世界3階級制覇王者のアイラン・バークレーと対戦し初回2分57秒TKO勝ち。バークレーはロベルト・デュラン、マイケル・ナンをあと少しまで追い詰め、トーマス・ハーンズにKO勝ちしていた。
この勝利はアメリカに大きな衝撃波を届けた。
しかし続く2度めの防衛戦でミステリアスなクリス・ユーバンクと対戦し9回2分56秒逆転TKO負けを喫し2度目の防衛に失敗し王座から陥落。
ここにイギリス史上最も過激なライバルのストーリーが誕生した。アリとフレイジャーのように両者は対極だった。彼らが共有したものは計り知れないハートと誇りだった。
その後ベンはスーパーミドル級に移行するがドラマは続いた。ユーバンクとの再戦で引き分け、そしてかの有名なジェラルド・マクラレン戦の究極の勝利と悲劇がベンに暗い影を落とした。
1995年2月25日、ニュー・ロンドン・アリーナで元ミドル級統一王者ジェラルド・マクラレンと対戦。
初回にダウンを奪われたがなんとか持ち直したが8回にダウンを追加された。
勝つにはKOしかなくなったベンは10回にダウンを2度奪い返し10回1分46秒逆転KO勝ちを収め6度目の防衛に成功した。マクラレンはKO時は自力で歩いてコーナーに戻ったが、その直後に意識不明に陥り、すぐさま会場近くの病院へ搬送。
検査の結果、脳内出血が確認され、緊急手術が施された。幸い一命は取りとめたものの、半身不随・失明、24時間の看護が必要な状態になり、この事故が原因となり引退に追い込まれてしまった。
この試合でベンはマクラレンに度々ラビットパンチ(後頭部打ち)を行ったとされ、それを注意しなかったレフェリーと共に非難されることになった。その後しばらく防衛を続けた「ダーク・デストロイヤー」はアイルランドのスティーブ・コリンズに2度敗れ、引退となったが、悲しい結末が彼のサクセスストーリーを損なうことは決してなかった。
ナイジェル・ベンはリングの中でも外でも常にダークサイドヒーローだった。しかし彼は1996年にプロキャリアを終えるとクリスチャンになり、信仰を持って個人的な問題を克服していった。
ベンは現在オーストラリアのシドニーで平和に暮らしている。
ベン
「かつて、マイアミ、バルバドス、ジャマイカ、スペインに住んでいた。オーストラリアは素晴らしく子育てに最適だ。」通算戦績42勝35KO5敗1分
ライバルについて
ベストボクサー シュガーボーイ・マリンガ
彼を想い出す。決して最上級の男ではなかったが私にとってのお化け=ブギーマンだった。初戦で勝ったのは地元判定だったとおもう。再戦で一生懸命トレーニングしたが、完全にへこたれてしまった。私をもっとも痛めつけたファイターで彼のパンチで唇が裂け、血まみれになった。本当に一生懸命トレーニングしたのに彼にはまるで通じなかった。打ち合いでは負けないはずでも彼は掴みどころのないスタイルだった。マリンガのパンチは見えてるんだけどなぜかどうする事もできなかった。彼をダウンさせても、これじゃ終わらない、長い夜になるとわかっていた。彼の再戦の勝利を認める。彼については素晴らしいという印象しかない。そんな彼が、俺に勝ってすぐにリッチー・ウッドホールに負けてしまうなんてね。俺だけの強敵だったのかもしれない。
https://www.youtube.com/watch?v=oZEkwMoJza0
https://www.youtube.com/watch?v=3KAXiwJmRA0
ベストパンチャー ジェラルド・マクラレン
パワーに関しては彼と他の男とでは天と地のギャップがあった。絶大なパワーだった。彼はピークで俺は負けると言われていたからどうしても勝つ必要があった。本当は俺はマイケル・ナンと戦う予定だったんだけどギャラが低かったから次のラストファイトにとっておいたんだ。当時のナンは「Second to」と言われたスターだったからね。だからミニマイクタイソンと言われていたマクラレンを選んだ。俺は元兵士でストリートファイトで百戦錬磨だった。だから誰も恐れる者などなかった。でも、マクラレンとの試合で俺は引退すべきだった。
ベストディフェンス マイケル・ワトソン
当時の俺は(bull in a china shop=はた迷惑な乱暴者)だった。トレーナーは俺に「ナイジェル、奴を蒸し焼きにしてこい」と言った。ボクシングの本をたくさん読んだけど(steam=蒸し焼き)の意味がわからなかった。未だにその意味がわからないけど当時の俺のチームはこんな感じだった。5回までワトソンにガンガン襲い掛かったけど奴にダメージを与えることができなかった。あとになって気づいたけどマイケルはコーナーで俺にウィンクして言ったんだ。「ガキなんて容易い」ワトソンのチームは経験豊富で優秀だった。あれが俺の初めての敗北で絶望的な気持ちだった。更衣室に戻ると残されたのは俺とパンツ(下着)だけだった。みんな俺を見捨てていった。
https://www.youtube.com/watch?v=SvW6hQ5MN6c
ハンドスピード
このカテゴリでベストはわからないな。
誰かがハンドスピードで俺を倒したんだろう、そして俺は最善を尽くしてそれを忘れた。(笑)スパーリングでも誰か凄い奴がいたか思い出せない。俺は距離の確認をしたいだけでそんなにスパーリングはしなかったんだ。マイアミの5番街に行った時はスパーリングを強制された。アドルフォ・ワシントンというクルーザー級でマイク・タイソンみたいな体型だった。ヘッドギアをつけてスパーリングをした。俺は奴と仲良くなりたかったけど奴は2度と俺とスパーリングしたくなかったようだ。フットワーク ダン・シェリー
彼のフットワークは良かった。右に動いて俺は右を当てたけど(笑)いい足だった。スイッチヒッターで速くて俺を動かし続けた。
ベストチン クリス・ユーバンク
聞くまでもないだろう。奴のアゴにパンチを当ててもびくともしない。花崗岩の塊を打つようだった。でも正直言うと奴のアゴを打つのを楽しんでさえいたよ。今では俺はクリスが大好きで老人だから笑ってジョークを語り合える。彼が俺を必要としたのと同じくらい俺にも彼が必要だった。
ベストジャブ ニッキー・パイパー
俺が奴を捕まえるまでずっと左ジャブに悩まされた。シュガーボーイ・マリンガのジャブも効果的だった。リンドサイ・モーガンという奴も背が高くてジャブを多用した。
屈強 ファン・カルロス・ヒメネス
ロビー・シムズも強靭だったけどヒメネスだね。彼はユーバンクやカルザケとも戦ったけどカルザケだけが彼を倒した。手数の多い強打者で牛のようだった。打ち合ってすぐにノックアウトできないと感じた。不倒の男だった。
スマート レジー・ミラー
距離を支配し続けたはじめての男だった。最終的にはなんとか彼をストップした。12戦目だったけど最後の最後でやっと捕まえた。いいスイッチヒッターでディフェンスも優れていた。でも最後に隙を与えてしまったね。
総合 ジェラルド・マクラレン
彼は信じられないほどのKO率を誇るパンチャーだった。他の相手とは1マイルの差があった。試合では鼻、アゴの骨を折り、血尿がでた。脳にダメージもあり3日間病院のベッドから動けなかった。いかに強力な王者だったかを示している。
狂犬、凶悪、素質のままに羽ばたいた才能を強く感じる個性でした。
マイケル・ワトソンに敗れるまで22戦全勝全KO
しかし本人もセコンドも畜生のままだった。
野性的、天然だからこその面白いインタビューと言えます。
ボクシング観戦初期の頃なので、ナイジェル・ベンがどこからやってきて、なぜダークヒーローなのかよくわからないが、とにかく狂暴、狂犬、KOの山でドレッドな風貌も相まってヤバい奴だった。
この男もまたビッグ4(デュラン、ハーンズ、ハグラー、レナード)の路地裏で活躍する日陰の狂犬だった。表舞台で人気と名声を手にしたビッグ4は誰もナイジェル・ベンと絡みたくなかったであろう。
英国にはアフリカやジャマイカルーツの強い黒人ファイターが現れる。
永遠のライバル、クリス・ユーバンクと共に生涯忘れえぬ強烈なミドル級だった。
そんな超強打者でも、ジェラルド・マクラレンの前では非力にみえた。
しかし勝ったのはベンだった。ありえないような非情で残酷な展開の果てに・・・
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