暖簾に腕押し/(Lil 'But Bad)スティーブ・ジョンストン

日本にもやってきた米国の本格的黒人王者。やっぱりスリックでスキルフルでパンチを食わない。当たったようで当たらない。難攻不落、偉大なファイターだったが、彼のようなスタイルの応用、発展、少しの違いがシェーン・モズリーでありフロイド・メイウェザーでありその他多くのアジリティの高い黒人スタイルの特徴なのだろう。村田諒太も伊藤雅雪も大局的にはこういうアメリカ黒人スキルに負けたのだ。いつか、このスタイルを突破する日本人は現れるのだろうか。

ライト級の雄スティーブ・ジョンストンは、1990年代、WBCライト級王座を2度獲得した。彼は卓越したスリックでスキルフルなファイトで賞賛というよりもむしろ尊敬されていた。

1972年9月28日、コロラド州デンバーに生まれたジョンストンは祖父母の影響を受けながら母親と妹と暮らしていた。

8歳でボクシングに興味を抱いた。

ジョンストン
「叔父がボクサーでした。おばあちゃんが僕の世話をしてくれていつも叔父と一緒にジムに連れて行ってくれました。叔父がトレーナーでありボクシングの始まりです。」

「Lil 'But Bad」は一心にボクシングに熱中し数々の国内タイトルを獲得、国際的にはキューバで行われたパンナムの大会で金メダルを獲得した。滑らかなサウスポーのジョンストンと同時期にアマチュアで活躍したライバルに後の3階級王者、シェーン・モズリーがいた。

1992年のオリンピック代表選考会でバーノン・フォレストに敗れたジョンストンは260勝13敗のアマチュアキャリアを残してプロに転向。

小柄なジョンストンは対戦相手を探すのに苦労した。
スーパーライト級まで増量し、5戦目でのちの世界ウェルター級王者ジェームス・ペイジと対戦し、8回判定勝ち。12戦目でのちの世界ライト級王者シャンバ・ミッチェルと対戦し、9回TKO勝ちを記録した。

ジョンストン
「シャンバは当時31勝1敗でした。対戦相手探しに苦労していたのでまだ11戦しかしていなかったけど彼と戦った。米国ボクシング連盟で戦ったんだ。私も彼も試合がなかなか決まらなかった。だからやろうぜとなった。」

ジョンストンは無敗でNABF北米ライト級王座を獲得し同王座は3度の防衛に成功したがタイトルマッチへの道のりは困難を極めた。

1997年3月パリを訪れ、WBC世界ライト級王者ジャン・バチスト・メンディに挑戦し、2-1の判定勝ちで世界王座を獲得。

https://www.youtube.com/watch?v=zZdK7eMMUUc

ジョンストン
「かなり圧倒したつもりだけどスプリットで驚いた。完全勝利だとおもった。」

1997年7月初防衛戦で坂本博之と対戦し、2-1の判定勝ちで初防衛に成功。
1998年2月、3度目の防衛戦でジョージ・スコットと対戦し、3-0の判定勝ちで3度目の防衛に成功。
1998年6月、4度目の防衛戦でセサール・バサンと対戦し、1-2の判定負けで王座から陥落するとともにプロキャリア25戦目での初黒星となった。

https://www.youtube.com/watch?v=8jSfh8iPlcI

1999年2月、王者セサール・バサンと再戦し、2-1の判定勝ちで王座に返り咲き。同王座は4度の防衛に成功。

https://www.youtube.com/watch?v=C8ukBoNSzqc

2000年6月、5度目の防衛戦でホセ・ルイス・カスティージョと対戦し、0-2の判定負けで王座から陥落。この試合はリングマガジン アップセット・オブ・ザ・イヤーに選出された。

2000年9月、ホセ・ルイス・カスティージョとダイレクトリマッチで対戦し、1-0の判定ドローで王座返り咲きならず。試合が終わるとジョンストンの勝利が宣告されたが後に引き分けに修正された。

ジョンストン
「勝利の後に引き分けになるなんて。私は勝ったとおもったのに」

誠実なジョンストンはカスティージョの控室を訪れ、採点ミスを伝えベルトを返した。

その後もジョンストンは戦い続けたが、2003年9月、WBC世界ライト級王座挑戦者決定戦でファン・ラスカノと対戦し、11回TKO負け。彼のピークは過ぎ、積み重ねた歴戦のダメージがその代償を払った。

2008年5月、エドナー・チェリーに敗れ、引退を決めた。

https://www.youtube.com/watch?v=c0piLIm9koE

通算戦績42勝18KO6敗1分。

ジョンストン
「エドナーに負けて私は自分に言い聞かせた。もう十分だ。グローブを吊るせ、もうトップレベルで戦えない。私は年をとった。十分やったじゃないかと。」

現役で戦ってみたかった男がいた。

ジョンストン
「シェーン・モズリーだね。彼とはアマチュア時代からライバルだった。彼がIBF王者で私はWBC王者だったから戦えたはずだったけど実現しなかった。フロイド・メイウェザージュニアも当時私の階級にやってきたから戦ってみたかったね。」

現在46歳のジョンストンは故郷のデンバーに住み、結婚し5人の子供に囲まれ、ボクシングには関わっていない。

ジョンストン
「トラブルを避けてただ静かに引退生活を送っているだけさ。ボクシングのおかげで人生を楽しんでいるよ。」

ライバルについて

ベストジャブ セサール・バサン

彼はひょろっとして背が高くて左ジャブが効果的で私は苦労したよ。

ベストディフェンス ホセ・ルイス・カスティージョ

再戦の時のカスティージョは素晴らしいコンディションでパンチを当てるのがとても難しかった。

ハンドスピード シャンバ・ミッチェル

サウスポーでとても速い素晴らしいボクサーだったよ、

フットワーク シャンバ・ミッチェル

たぶんフットワークもシャンバだろうね。サウスポーとしてどう動けばいいかよくわかっていた。

屈強 ホセ・ルイス・カスティージョ

カスティージョかエドナー・チェリーだけど、カスティージョにするよ。再戦の時の彼は本当に素晴らしいコンディションだった。タイトルを守る強い意志があった。私は勝った、ベルトは盗まれたと感じたけど彼は本当に強かった。

スマート ホセ・ルイス・カスティージョ

私が一発当てると必ず2発3発と打ち返してくる。クソ!っておもったよ。呑み込まれているように感じた。彼はボディを多用した。それが作戦だったのだろう。初戦では頭、再戦ではボディ、あれが私のフットワークを奪った。2戦目の彼は本当に素晴らしかった。

ベストパンチャー セサール・バサン

バサンかカスティージョだね、うーん、一番はバサンかな、いい左フックを持っていた。

ベストチン エドナー・チェリー

エドナー・チェリーにしておこう。最後に戦ったから今でもよく覚えている。たくさん殴ったのに前進し続けた。

ベストスキル エンジェル・マンフレディ

エンジェル・マンフレディ、彼はいいボクサーだ。ジャブ、カウンター、タフネス・・・彼は素晴らしいコンディションでタイトルを奪いにきていたから私は自分のファイトを守らねばならなかった。あの日の夜はほんの少しだけ私の方が優れていただけだ。

総合 ファン・ラスカーノ

恐ろしくタフで、打ち合いが上等、むしろそれを好んでいた。あの日の夜は彼のものだった。

アメリカを代表するようなアマチュアエリートのジョンストンが母国を離れて戦ったのはタイトルをとったメンディ戦のフランスと、坂本博之の日本ともう一戦(英国)50戦近いキャリアでこの3回だけだ。

それだけ当時和製デュランと言われた日本の坂本のハードパンチの期待値はMAXだった。タフな坂本もジョンストンのパンチに表情変えることなく耐え続けたが、ジョンストンもまた坂本のパンチなど慣れたものと芯には決して食わず、豆腐のように吸収し、まさに暖簾に腕押し、ちゃんと当たらず、全然倒せない、そんな絶望感を味わった。

それもそのはず、世界ではそんなジョンストンやセサール・バサンやホセ・ルイス・カスティージョでさえバタバタ倒すハードパンチャーなどいくらでもいたのだ。日本のパンチャーは世界の標準か、そんな遠い世界を痛感させる本場の戦いがあった。

164センチとかなり小さく、柔軟なゴムのような肉体を持つジョンストン自身、パンチ力はなかったが、身体的特徴を生かしたスリックさとスキルは黒人ならでは、日本では未知の領域だった。

ジョンストンをして総合にあげる、ファン・ラスカーノはカスティージョもその屈強さに驚いて高評価をしていたが、個人的にはあまり覚えていない。メジャータイトルは獲得していないのかもしれない。他者の伝聞だけ聞いても大変パワフルで屈強なファイターであった事がよくわかるが、そんなラスカーノもエドウィン・バレロにおもちゃにされていたという伝聞を聞くにつれ

やはりここらの階級は尋常ではなく険しい。
パンチ力だけでは通じない。

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