トンネルの終わりに/(レンチョ)ロレンソ・パーラ

ロレンソ・パーラ、気まぐれな問題児という印象だったが、彼は今でも戦っている。故郷から遠く5000マイル離れた異国の地で、負けるために戦い続けている。

(レンチョ)ロレンソ・パーラは本当はサッカー選手になりたかったが、その夢を諦め2003年にボクシングの世界王者になった。栄光の日々は終わり、パーラは38歳になった。しかし彼は最後に輝くチャンスを探し続けている。

イビサ(地中海に浮かぶスペインのバレアレス諸島)でキャリア5戦足らずの初心者と6ラウンドの試合を予定していると聞いた時、元世界フライ級王者の(レンチョ)ロレンソ・パーラに最悪の事態が起きるのではないかと悪い予感がした。

彼がジュニアウェルター級の体重で戦うと知り懸念は益々広がった。

レンチョは何をやっているんだ。ベネズエラの自宅から5000マイルも離れた島で、40歳の誕生日を目前にして、ピーナッツ欲しさに全盛期の体重を30ポンドも上回る重さで戦うというのだろうか。

マドリードからバレンシアまでの電車に揺れながら、この旅の終点に一体何が待っているのか不安になった。先週レンチョから指示を受けたとおり、ホアキン・ソロラ駅に着くと無事を心配しつつ電話した。

パーラ
「やぁ!今病院にいるんだ。ここに来て話せるかな?」

病院?判定負けした事以外はニュースに書かれていなかったが、レンチョはひどいダメージを受けたのだろうか?

私は最悪の事態に備えた。

タクシーに乗り、病院のメインドアに立つと患者たちが私を振り返る。レンチョは病院ではなくそのすぐそばに住んでいたのだった。

最近イビサにやってきた(レンチョ)ロレンソ・パーラは、リングで過ごした30年間のダメージをあまり感じさせず、無傷にみえた。元々フライ級王者だからとても小さいのだが、少し中年太りしていた。右目付近に傷があったが、ボクシングでできた傷ではなくサッカーで頭をぶつけて出来た傷だと主張した。

レンチョと私は地元のバーに行き話をはじめた。

パーラ
「サッカー選手になりたかったんだ。とても優秀な選手で国の州代表レベルでプレーしていた。兄のアレクシスがボクサーだった。彼は1989年2月16日に世界挑戦する予定だったが、1988年12月31日に路上トラブルで喉を切り裂かれて殺されてしまった。私はまだ10歳だったけど、世界王座を獲ると母に言った、兄の夢を実現するつもりだった。」

15年後、レンチョは敵地プエルトリコで無敗の王者、エリック・モレルを破り、WBAフライ級世界王者になった。

パーラ
「モレルは33勝無敗だった。メイウェザーのような無敗だ。マネージャーは私が勝てるとおもってなくて、もし負けてもギャラはちゃんと払うと言っていた。けれど私は勝利に飢えていた。勝てると本気でおもっていた。だから実際にそうなった。」

それはベネズエラ以外で戦うはじめての試合だったが、王者となったレンチョはすぐにロードウォリアーになった。

日本、韓国、フランスで5度の防衛に成功、2006年に半月板損傷と手術でブランクを作り、2007年3月に復帰したが15か月のブランクで肉体は錆び付いていた。日本で過去に2度勝っている坂田健史に3回終了棄権で敗れた。

https://www.youtube.com/watch?v=2ba5BPXF2wg

全てのチャンピオンはいつか負け、フライ級のほとんどの選手はキャリア全体でその階級に留まり続けることはない。世界王者となり防衛を重ねたレンチョは地元で暮らすのに十分な貯金ができなかったのだろうか。

パーラ
「世界王者として私がもらった最高額は6万ドルです。そこから色んな経費が引かれる。家族のために家を買ってビジネスも始めた。6万ドルはベネズエラではまともな額だが、それでも長続きはしなかった。」

レンチョはリングに戻る必要があった。しばらくボクシングを離れた体にとって、フライ級は遠い記憶であり、スーパーフライ級やバンタム級も無理だった。2008年6月にスーパーバンタム級で、パナマの大きなセレスティーノ・カバジェロとの試合が組まれた。

カバジェロは大きなパンチャーだが、レンチョはスマートでタフなボクサーであり、試合は拮抗したものとなった。

パーラ
「私は試合を楽しんでいた。簡単な相手ではなかったけど、ポイントは競っていた。レフリーが突然ドクターに私のアゴを見せて試合は止められた。口を開けたり閉じたりして大丈夫と言ったんだけどダメだった。腫れてはいたが折れてはいなかった。坂田との初戦で3回にアゴを折ったから、アゴの骨折がどんなものかはわかっている。」

折れたアゴでエリート相手に30分も戦うのはどんな気分なのだろうか?

パーラ
「大丈夫です。戦い続けることはできます。わかるだろうか、まぁ、なんとかなるものです。」

その後2年間でレベルの低い試合をしたが以前の輝きは失われたままだった。しかし元王者の肩書が役に立ち、ホルヘ・アルセとのスーパーバンタム級エリミネーターがきまった。両者は引き分け、どちらも挑戦者にふさわしい能力をみせた。結局アルセがWBO王者のウィルフレド・バスケスJrに挑み、パーラはWBAバンタム級王者のアンセルモ・モレノに挑むことになったが、モレノは難攻不落だった。

パーラ
「それから8か月後にマネージャーから電話がかかってきた。またアルセが戦いたいと言っている。いつ?「来週だ」私はオフで10キロ太っていて笑ったけど、そのオファーを受けた。」

コンディションの整っていないレンチョはアルセのボディで5回に沈んだ。まもなく35歳の誕生日を迎えるレンチョはレフリーが10カウントを数える前にマウスピースを吐きだした。

それから、4年の歳月を経て、レンチョは戻ってきた。栄光の夜よりはるかに重いジュニアウェルター級として、2勝8敗の相手と引き分け、デビュー戦の相手に勝利した。

それから、レンチョは祖国が崩壊していくのを目の当たりにし、ヨーロッパを目指すことになる。

パーラ
「もうすぐ妻と4人の子供をここに連れてくるつもりだ。ベネズエラは今とても混乱して危険だ。何の罪もない人が殺されるのをみてきた。警察のバイクを通り抜けて前に座っている子供が撃たれるのをみた。私も銃を向けられることがよくある。家族を安全なスペインに連れていきたいんだ。」

ボクシング界には世界中どこでも必ずブローカーのような仲介人がいる。レンチョはスペインでもすぐに仕事にありつくことができた。エリートクラスの踏み台として、どんな需要にも応えた。レンチョは毎回必ず負ける。今や単なる対戦相手というだけだ。

たくさんウィンクしたり頷きながら、レンチョは自分の新たな役割を説明する。彼のパフォーマンスが良かろうが悪かろうが、今やレンチョは負けるために戦う。期待されたことを演じてギャラを貰う。対戦相手をいじり、相手に才能以上のパフォーマンスを発揮させて持ち上げる。

パーラ
「ビルバオでアンドニ・ガーゴと8回戦をした時、ガーゴは楽勝のつもりだったけど、間違っていたね(笑)」

しかしレンチョの笑いはすぐに消える。彼の今の状況は、実力ではなく、お金が切実な問題なのだ。レンチョは具体的には言わないが、ブローカーのような仲介人にかなり搾取されているのは確実だ。レンチョは今の仕事を誇りにしているが、苦労しているのは明らかだ。

しかし、見えないトンネルの終わりには光もある。

スペインで最も評判のいいプロモーターのMGZプロモーションズがレンチョに救いの手を差し伸べた。

イニゴ・ヘルボサ(MGZプロモーションズ)
「レンチョは本当にいい人です。正直で勤勉です。もっと大事に扱われるべき人物です。アンドニ・ガーゴとの試合は素晴らしかったです。もっといい試合を組んであげたいし、彼の技術と経験を生かしてトレーナーとして採用します。」

まるで合図のように10代の少年がバーに入ってきて、レンチョに丁寧な握手をする。時間と場所の約束をして少年は元気にバーを後にした。

パーラ
「私の生徒の一人です。公園やジムで彼にボクシングを教えています。父親代わりのようなものです。他に何もできないけど彼が元気になるのであれば。」

(レンチョ)ロレンソ・パーラはきっといいトレーナーになるだろう。しかし彼にはまだグローブを吊るす準備が出来ていない。かつてチャンピオンだった男は、今もチャンピオンであり、彼はまだリングの勝利に飢えているのだ。

パーラ
「キャリアを通じてそんなにまともにパンチを打たれてないんです。パンチを避けたり衝撃を和らげたりするのが得意だから。だから私は40歳までは戦います。あともう2年だけ。MGZプロモーションズには、もう一度勝者になりたいとだけ伝えた。もう一度、勝つために戦わせてください。」

書きながら目頭が熱くなってしまいました。

アマチュア戦績は278戦268勝10敗
一発で全盛期のエリック・モレルからタイトルを奪うのだから天才だ。
五輪金メダルのブライム・アスロウムにも完勝した。
しかしどこか嫌々戦っているような冷めたところがあった。

坂田が勝つまで延々戦わされるような役目の王者だったが、それでもファイトマネーがいくらかはよかったのだろう。

これは3年前の記事になるが、41歳となった今も(レンチョ)ロレンソ・パーラは戦い続け、負け続けている。

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今年の4月で止まっているからこれが最後であって欲しいが、ポルトガルまで足を延ばしている。

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