あしたのグラスジョー/(かめ割り)柴田国明

あんまり語られないけど、日本人離れした突出した才能とはこの男の事ではないかな、とずっとおもってはいても情報がなく書けなかった。アウェーでレジェンドクラスの世界王者を破りタイトル獲得、またまたアウェーで2階級制覇、今も昔もこれを実現した日本人はいない。スペシャルな能力と同時に大きな落とし穴もあったのだが・・・

柴田国明はよく風邪を引く。実際、フェザー級で己の地位を確立しようとするたびに失敗を繰り返した。しかしどういうわけか、柴田は忍耐強さと勤勉さで、2階級のベルトを獲得し、時に驚くような素晴らしいパフォーマンスを魅せた。

柴田は多彩なパンチを顔面とボディに打ち分ける強力なパンチャーであり、その素早いハンドスピードとコンビネーション、攻防のシームレスな一体感は一級品だった。試合が後半まで進めば、彼の高いボクシングテクニックを攻略するのは至難の技だが、序盤極端に脆いという特徴があった。

1960年代後半の日本で最高のフェザー級だったが、ステップアップを試みる度に失敗。OPBFタイトル挑戦や負けるはずのないドワイト・ホーキンスらにストップ負けをした。

しかし1970年、メキシコのレジェンド、WBCフェザー級王者のビセンテ・サルディバルに挑戦した柴田は突如キャリア最高のパフォーマンスを発揮する。議論の余地なき絶対的な王者として君臨していた「メキシコの赤い鷹」サルディバルはWBA・WBC世界フェザー級王者でメキシコの英雄だった。数多くの強豪をマットに沈め、柴田と戦うまでの戦績は36勝1敗。その一敗も17戦目に不運な失格負け、実質パーフェクトレコードの殿堂入りの巨人だ。

柴田はサルディバルにとっては簡単な相手になるはずだった。しかし柴田は高速のハンドスピードを駆使し、サルディバルのお株を奪いゲームを支配し続けた。

試合は柴田の完全なレパートリーとなった。サルディバルのパンチを滑らかにかわし、硬いジャブを当て、ミドルレンジからストレートをビシビシと決める。近づいても離れてもリズムよくカウンターやボディへのコンビネーションも冴えわたった。出鼻をくじかれたサルディバルも後半懸命な努力をするが、序盤からダメージを受け続けたサルディバルは13回、ついに精魂尽きた。

https://www.youtube.com/watch?v=9fAB4Ek-mWY

世界的な名選手サルディバルを破った柴田は一躍世界最高のフェザー級に躍り出たが、サルディバル戦以上のパフォーマンスを発揮することはなかった。

初防衛戦では経験豊富なラウル・クルスを初回で電撃的な失神ノックアウト。

https://www.youtube.com/watch?v=oiS1dE6RHZE

次の防衛戦は「パナマの黒豹」エルネスト・マルセル。引き分けでかろうじてタイトルを守るもマルセルの勝利を支持する声も多かった。

半年後、柴田はメキシコのパンチャー、クレメンテ・サンチェスに見事に吹き飛ばされた。一度は立ち上がり再開しようとするもまた大の字で派手に倒れた。柴田の打たれ脆さは深刻だった。

しかしこれで終わりではない。
柴田は階級を上げ、アメリカでフィリピンのベン・ビラフロアに挑戦、15ラウンド判定勝ちで見事2階級制覇に成功。

https://www.youtube.com/watch?v=NTPhzHV0qhA

一度の防衛後にビラフロアと再戦するも、今度は初回ノックアウトで敗れた。

明らかに体格差が顕著な試合だったが、柴田は勇敢に戦い、ワンパンチで散った。

負ける時は完膚無きまでのノックアウトで沈む柴田だがまだ終わらない。次戦で、リカルド・アルレドンドを判定で下し再びWBC王座を獲得、3度の防衛に成功。

4度目の防衛戦、アルフレド・エスカレラにまたも序盤2ラウンドKO負けでタイトルを失う。

その後日本人ランカーらに連勝したままキャリアを締めくくった。

柴田国明は相手が強ければ強いほど力を発揮する不思議なファイターで、底知れぬ才能があった。反面、致命的な打たれ脆さを備えており、質が落ちる相手に簡単に負けることが多く、難攻不落の王国を築くことが出来なかった。しかし、ベルトが貴重な時代の2階級、3度の紛れもなき世界王者であり、伝説のビセンテ・サルディバルを初めてストップした男になった。

とても優れた才能にして、序盤で吹き飛ばされる特徴をもったユニークな柴田国明は多くを成し遂げた名王者といえる。

通算戦績56戦47勝(25KO)6敗3分

ずっと書きたかった選手だが、情報がなくて書けなかった。
当然リアルタイムで観戦してきた選手じゃない。

古い映像で見るその動きは素人がみても、普通じゃない。

このキビキビした動き、キレとスピード、パワー、断トツ日本人ナンバーワンではないかと密かにおもっていた。しかしその素晴らしい躍動感と同じくらい派手な負けっぷりもみてきた。

負けた試合をみると極端にグラスジョーだ。打たれ脆い。単にダウンするだけでなく効きっぷりが半端なく、再開はおろか、即担架みたいな散り方だ。

体質もあるのだろうが、163センチでフェザー、スーパーフェザーは極端に小さいが、太くがっちりしたその体型からして減量苦、そして打たれ方の悪さもあってここまで効いてしまうのではないか。パンチを殺すようなディフェンスは持たない。

その欠点さえなければ、この時代にこんな才能が日本にいたのかというほど素晴らしい身のこなしとパワーを備えた規格外の選手といえた。やはり今観ても、日本人歴代最高のフェザー、スーパーフェザー級は彼だ。

当時のビセンテ・サルディバルに勝つというのは、今でいえばカネロに勝つのと同じような事。近い階級でいえばゲルボンタ・デービスに勝つようなものか。

さらには、サルディバルにもビラフロアにも敵地で勝ってきた。
それなのに一流未満の挑戦者に序盤あっさりノックアウトされてしまう。

引き分けで防衛したエルネスト・マルセルって、アレクシス・アルゲリョに勝って引退した名王者ですぜ。柴田に鬼のタフネスか、ディフェンスの魔法があればアルゲリョやサルバドール・サンチェスに比肩する才能だったかもしれません。

昭和の古き時代に突如現れた天才、底なしの才能とガラスのアゴを持った、ドキドキハラハラの男、柴田国明は70歳を過ぎても未だ元気にボクシングに愛情を注ぎ続けている。

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